【突撃!隣の代アニ授業】舞台演出家・脚本家の元吉庸泰さん が語る「業界で活躍するために必要なこと」

2025.02.06

舞台演出家や脚本家として『僕のヒーローアカデミア The “Ultra” Stage』やミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』などに携わっている元吉庸泰さん
元吉さんに、2.5次元舞台制作・演出科で特別授業を実施していただきました!

元吉さんが思う、業界で活躍するために必要な考え方とは?

素晴らしい学びの環境

業界で活躍するためにまず最初に元吉さんは環境について語ってくださいました。

皆さんは今、素晴らしい環境に恵まれています。
そして、この環境で学ぶことを選んだのは、非常に賢い決断だと思います。

僕がこの業界に入ったころ、自分のやりたい演劇をするためには、まず自分で劇場を借りる必要がありました。
どんなに設備が古くても、どんなに狭くても、1日最低でも10万円かかります。
1回の公演には最低でも5日がかかり、そのうち2日間は照明やセットなどの準備、残りの3日間で公演を行うのが一般的です。
1日10万円と考えると、合計で50万円
その金額をカンパニーのみんなで負担しなければなりません。
そのために、僕は照明の仕込みのバイトに行き、そこでさまざまな制作技術を学びました。
みんな、大なり小なりそうやって技術を身につけていったのです。

一方、代アニでは技術や知識を体系的に学べるだけでなく、プロの現場とつながり、関係者から多くの話を聞ける環境があります。
さらに、「天王洲 銀河劇場」という劇場を所有しているという点も、本当に素晴らしいことだと思います。

あなたの「好き」は何ですか?

僕が照明のバイトをしていた時、照明プランナーから誘われて照明のオペレーターやプランナーとしても働き始めました。
その一方で役者としても活動しており、その時出演した舞台の監督の紹介で、鴻上尚史さんに演出補佐として師事することになりました。
ちなみに、役者としては、共演した満島ひかりさんが天才すぎて、「自分は役者にはなれない」と感じて辞めました(笑)

初めて鴻上さんに会った時、「演出家になりたいです」と言ってから演出家の仕事が増えていき、今に至ります。
よく「演出家になりたい人はどうすればいいですか?」と聞かれますが、結論から言うと、「演出家になりたい」と思った瞬間から、あなたはすでに演出家です。
この世界では、できる人のところにしか仕事は来ません。
あるいは、できるだろうと思われた人に仕事が来るのです。
だから、演出家になりたいと思ったら、どんな形でもいいので演出をして、「できる(だろうと思われる)人」になってください。

例えば大切なことは、自分の気持ちを具体的にすることです。
「照明になりたい」と思った場合、何をしたいのかを明確にしましょう。
照明プランを作るのが好きなのか、照明を操作するのが好きなのか、灯体をいじるのが好きなのか、ステージの照明を見るのが好きなのか、それぞれ方向性がまったく異なります。
クリエイションをしたいのか、テクニックを磨きたいのか、エンターテインメントをただ楽しみたいのか。
自分の気持ちに従って、何をしたいのかを理解してください。

この演劇の世界は、自分が「好きだ」と思った場所に行ける世界です。
僕の知り合いには「劇団☆新感線」に関わりたくて、「好き」を言いつづけたことで
実際に「劇団☆新感線」の制作を担当している方もいます。
それくらい、自分が好きだと思った場所に行ける可能性があるんです。

制作スタッフは本当に人手不足なので、採用されるチャンスも多いでしょう。
その中で、自分の「好き」を具体的に突き詰められる人が輝きます。ずっと楽しむことができます。
逆に言えば、好きなことがわからないと、どう進むべきかわからなくなってしまいます。
もし今見つかっていなくても大丈夫。代アニで探せばいいんです。

僕は鴻上尚史さんの前で「演出家になりたい」と言った瞬間から、演出家であり続けています。
自分のやりたいことを具体的にしたからです。
「舞台を見た人の笑顔を見ること」が好きなのだと、自分の気持ちをさらに具体的にしました。
その結果、ありがたいことにたくさんの仕事をいただいています。

皆さんも、普段から自分の気持ちを具体的にすることを心掛けてください。
例えば、作品や広告を見たときに「好き嫌い」を感じると思います。
それは誰でもできます。でも、プロになるためには、「自分が何を気に入ったのか」「どこが不快だったのか」を具体的に分析してみてください。
そして、自分の「好き」を明確にすることが重要です。それがあなたをプロにします。

日本のスタッフワークは世界でもトップレベルです。
湿度が高い気候でミュージカルを公演することは難しいと言われています。音が遠くまで届かないからです。
しかし、日本はそれを克服しています。

また、海外の舞台スタッフはそのスピードやクオリティに驚きます。
僕が海外の演出家と一緒に仕事をしたとき、小屋入りから1、2日で舞台が完成する速さに驚いていました。
それくらい、日本のスタッフワークはすごいのです。
皆さんは、自分の「好き」を具体化し、それに飛び込む力を持っています。
いつか一緒にお仕事できたら嬉しいですね。

もっと教えて!質疑応答👂

特別授業の最後には、学生たちからの質問に元吉さんが答えてくださいました☺️

Q.原作ものを演出する際、バランスはどうしていますか?

A. まず第一に、原作への最大のリスペクトを持ちます。
その上で、舞台に落とし込む際に弱くなってしまう部分をどうカバーするかをじっくり考えます。
感覚的に、7~8割は原作を踏襲し、残りの2~3割で舞台に適したアレンジを加える必要があると思っています。
その「アレンジ」というのは、例えばマンガは目で見る文化であり、文字も視覚的な要素が強いですが、舞台は耳で聴くものです。
マンガのセリフをそのまま舞台で言うと、聞き手は全てを理解できるわけではありません。
そのためセリフの流れを考え、必要に応じて調整しています。
また、舞台のリアリズムをどのように作品に取り入れるかも重要です。
幕が開いたら舞台はノンストップ。
それぞれのキャラクターの気持ちが最後まで途切れないよう作り込んでいきます。ここは役者さんとも話しながらですね。

Q.ミザンス(舞台上での俳優の位置や動き)をつけるときの意識は?

A. さまざまなタイプがありますが、僕は俳優の心理に合わせた動きをつけることを重視しています。
無理をさせない動きが大切です。役は俳優のものなので、演出家はその演技がスムーズに出せるような状況を作ることが仕事だと思っています。

Q.照明プランはどう決める?

A.各シーンの意図をすり合わせるために、打ち合わせながら決めます。
それはそれは時間をかけます。通常のミュージカルだと照明のキュー数(転換数)は300~400くらいで、打ち合わせには4時間かかります。
2.5次元でバトルがあると、キュー数は多くて700。当たり前ですが、キュー数が多いほど時間はかかります。

また、打ち合わせでは、大体1/100スケールの舞台模型を使います。
これを使って、照明はもちろん、役者の出ハケや舞台美術の設定などいろいろなことを考えていきます。

Q.業界で働くうえで気を付けていることは?

A.自分以外の仕事に興味を持つこと。
作品は、さまざまなセクションが連携してつくり上げるものなので、他のセクションが何をやっているかを興味を持つことはすごく大事です。
それをないがしろにすると、話がわからない人になってしまいがちです。
別の仕事につながるチャンスをつかむ可能性だってあります。
「照明ができるなら、映像も出せますよね?」みたいな感じで、声をかけられたり、誘われたりするんですよ。
まずは自分の隣の人が何をやっているかから興味を持ってみましょう。

Q.今の目標や夢は何ですか?

A.言語を超えた表現をつくりたいです。
圧倒的な表現を受けた時、言葉がわからずとも泣けるんです。
それができているのは、シルク・ドゥ・ソレイユだと思っています。
僕は初めて現地で見たとき、演目が始まった瞬間になぜか涙があふれてきたんです。
知り合いの舞台監督に連れて行ってもらったんですけど、隣を見たらその人も号泣していました(笑)。
皆さんにも、ぜひ一度現地で見てもらいたいですね。
そういう作品って、面白いとか面白くないとかを超えて忘れられないじゃないですか。
目の前で見た人の人生にリアルタイムで関われるものは、ライブエンターテインメントだけなんですよ。
そういう作品をいつか作ってみたいです。

Q.今学ぶべきスキル

A.自分以外に興味を持つことにもつながりますが、人に聞くことです。
「これはどうやっているんですか」「これってこういうことですか」を素直に聞けるのはすごいことです。
プライドや遠慮が邪魔をして聞けないのはもったいないです。「知りたい」「わかりたい」という欲求に従うべきです。
聞かれたら教えてくれますし、聞かれた側もその人のことを覚えます。
制限をかけるのは自分ですが、制限を外すのも自分です。若い間の勢いで聞ける時に聞いちゃいましょう。

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この他にもたくさんの質問に答えていただけました!

元吉さん本当にありがとうございました!

代々木アニメーション学院では、これからも第一線で活躍する方をお招きして、業界のお話を聞ける機会を提供していきます。
アニメ・エンタメ業界を目指したい!という方はぜひオープンキャンパスへお越しください。

■ 元吉庸泰さんプロフィール
舞台演出家・脚本家。ワタナベエンターテインメント所属。
脚本・演出舞台「鬼滅の刃」其ノ伍 襲撃 刀鍛冶の里
脚本・演出舞台「刀剣乱舞」十口伝 あまねく刻の遥かへ
演出『僕のヒーローアカデミア The "Ultra" Stage 』
脚本作詞ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』
ほか多数
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